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「自分の所得税、いくらになるんだろう」――毎年2月になると、私の窓口にはこういう相談が列をなしていました。売上の金額はわかっている。でも、そこから何を引いて、何をかけると税額になるのか、手順がよくわからない。そういう方がほとんどでした。
実は、所得税の計算は決まった順番どおりに進めれば、それほど難しくありません。難しく感じる原因のほとんどは「どの数字から始めるか」「控除を引く順番」を知らないことです。この記事では、個人事業主・フリーランスを対象に、所得税の計算手順を順番に整理し、売上別のシミュレーションと節税のポイントまで一気に解説します。
個人事業主の所得税はこう計算する|ステップ別の計算方法
「売上がそのまま課税されると思っていた」という誤解が、一番多い損のパターンです。
所得税は「売上にかかる税金」ではありません。売上から経費と各種控除を引いた後の「課税所得」にかかる税金です。この順番を間違えると、自分で計算した税額が実際より大幅に高くなってしまいます。
計算は、次の4ステップで進みます。
ステップ1:事業所得を出す
売上(収入金額)− 必要経費 = 事業所得
必要経費とは、事業を行うために使ったお金のことです。仕入れ・外注費・通信費・消耗品費・家賃(按分分)・車両費など、業務に関連した支出が該当します。領収書と帳簿できちんと管理されていれば、経費として計上できます。
ステップ2:課税所得を出す
事業所得 − 各種控除 = 課税所得
引ける控除の主なものは次のとおりです。
- 青色申告特別控除:複式簿記で55万円、e-Tax申告または電子帳簿保存で最大65万円(単式簿記は10万円)
- 基礎控除:令和6年分(2024年)は48万円(※後述の注意あり)
- 社会保険料控除:国民年金・国民健康保険の支払額(全額控除)
- iDeCo(小規模企業共済等掛金控除):掛金全額
- 生命保険料控除・地震保険料控除:支払保険料に応じて控除
- 小規模企業共済掛金控除:掛金全額
控除の種類と金額によって、課税所得は大きく変わります。「控除を知ることが節税の第一歩」というのは、まさにここの話です。
ステップ3:税率をかけて所得税額を出す
課税所得 × 税率 − 控除額 = 所得税額
税率は課税所得の金額に応じて段階的に上がります(累進課税)。詳しくは次のH2で解説します。
ステップ4:復興特別所得税を加算する
所得税額 × 2.1% = 復興特別所得税
東日本大震災の復興財源として2013〜2037年まで課される税金です。つまり実際に納める税金は「所得税 × 1.021」になります。確定申告書にも自動的に計算されますが、手計算するときは忘れずに。
⚠️ 【基礎控除の改正について】
本記事の試算は令和6年分(2024年)ベースです。令和7年分(2025年)からは基礎控除の金額が合計所得に応じて変わりました。合計所得655万円以下の方は基礎控除が58万円に引き上げられています。令和7年分以降の申告をされる方は、必ず国税庁ウェブサイトでご確認ください。
所得税の税率早見表|個人事業主が知るべき累進課税の仕組み
「税率が1段上がった瞬間に、全部の所得に高い税率がかかる」と思っている方が多いのですが、それは誤解です。
日本の所得税は「超過累進課税」という仕組みです。課税所得全体に一律の税率がかかるのではなく、それぞれの金額の「区間ごとに」税率が変わります。たとえば課税所得が200万円の場合、195万円を超えた5万円分だけが10%で課税され、195万円以下の部分は5%のままです。
下表は令和6年分(2024年)の税率表です(出典:国税庁No.2260)。
| 課税所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
「控除額」は累進課税の計算を簡便にするための調整額です。「課税所得 × 税率 − 控除額」という式で計算すると、各段階の税率を個別に計算しなくても正しい所得税額が出るようになっています。
個人事業主が特に意識したい境界線は 課税所得330万円と695万円 の2か所です。税率がそれぞれ10%→20%、20%→23%と上がります。「この境界を超えないように課税所得をコントロールする」のが節税の基本的な考え方です。
個人事業主の所得税 計算シミュレーション|売上別の具体例
「税額を知るのが怖い」という方ほど、早めに計算して現実を把握することが大切です。
以下は令和6年分(2024年)を前提に、青色申告65万円・基礎控除48万円・国民年金保険料約20万円(年間)を控除した場合のシミュレーションです。経費は売上の20%と仮定しています(売上300万円以下は経費0円で試算)。
例①:売上300万円のフリーランス(経費ほぼなし)
- 事業所得:300万円
- 控除合計:65万円(青色)+48万円(基礎)+20万円(国民年金)= 133万円
- 課税所得:300万円 − 133万円 = 167万円
- 所得税:167万円 × 5% = 83,500円
- 復興特別所得税:83,500円 × 2.1% ≒ 1,754円
- 住民税(約10%):167万円 × 10% = 約167,000円
- トータル税負担:約252,000円
例②:売上500万円のフリーランス(経費なし)
- 事業所得:500万円
- 控除合計:65万円(青色)+48万円(基礎)+20万円(国民年金)= 133万円
- 課税所得:500万円 − 133万円 = 367万円
- 所得税:367万円 × 20% − 427,500円 = 306,500円
- 復興特別所得税:306,500円 × 2.1% ≒ 6,437円
- 住民税(約10%):367万円 × 10% = 約367,000円
- トータル税負担:約68万円
例③:売上800万円のフリーランス(経費160万円)
- 事業所得:800万円 − 160万円 = 640万円
- 控除合計:65万円(青色)+48万円(基礎)+20万円(国民年金)= 133万円
- 課税所得:640万円 − 133万円 = 507万円
- 所得税:507万円 × 20% − 427,500円 = 586,500円
- 復興特別所得税:586,500円 × 2.1% ≒ 12,317円
- 住民税(約10%):507万円 × 10% = 約507,000円
- トータル税負担:約110万円
所得税を減らすための最初のステップとして、青色申告の選択がおすすめです。→青色申告と白色申告の違いもあわせてご覧ください。
住民税は所得税の計算とは別に課されます。所得税だけ計算して安心していると、翌年の住民税の請求で驚くことになります。フリーランスの住民税の計算と節税方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
所得税を合法的に減らす3つの方法|個人事業主が使える節税
節税は脱税ではありません。法律が用意した仕組みを正しく使うだけです。
シミュレーションを見て「思ったより高い」と感じた方に、個人事業主が確実に使える節税手段を3つ紹介します。
①青色申告特別控除65万円を確実に取る
最大65万円の控除を受けるには「複式簿記での記帳」と「e-Tax(電子申告)または電子帳簿保存」が条件です。単式簿記や紙申告だと控除額は10万円に下がります。差額55万円に対して税率20%なら、それだけで11万円の節税効果があります。会計ソフトを使えば複式簿記の知識がなくても自動で帳簿が作れるため、freee・マネーフォワード・やよいのいずれかの導入がほぼ必須です。
②iDeCo・小規模企業共済で所得を減らす
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は全額所得控除です。フリーランスの場合、月額最大68,000円(年間816,000円)まで拠出できます。小規模企業共済は月額最大70,000円(年間840,000円)が全額控除。どちらも「老後の積立をしながら今年の税金を減らせる」一石二鳥の制度です。
課税所得が330万円を超えて20%の税率ゾーンに入っている方は、iDeCoや共済でそのゾーンを引き下げるだけで、所得税・住民税合わせて年間10万円以上の削減につながることがあります。
③ふるさと納税・医療費控除・生命保険料控除を使い切る
ふるさと納税は返礼品をもらいながら所得控除と住民税額控除を受けられる制度です。個人事業主の控除上限は課税所得によって変わります(計算方法は節税完全ガイド2026年版を参照)。医療費控除は10万円(または合計所得の5%)を超えた分が控除対象になります。生命保険料控除は最大12万円。これらは手間がかからない割に確実に効く手段です。
こうした控除の入力・管理を会計ソフトが一括でサポートしてくれます。確定申告の作業時間を減らし、控除の取りこぼしを防ぐ意味でも、以下の3つは特に個人事業主に使いやすい会計ソフトです。
まとめ|個人事業主の所得税 計算の3つのポイント
「計算してみたら思ったより安かった」という方も多いです。まずは自分の数字を出すことが出発点です。
- 所得税は「売上」ではなく「課税所得」にかかる ─ 経費と控除を正しく引いてから計算する
- 累進課税は「超えた分だけ」高い税率 ─ 課税所得が1円でも上の段に入っても、全額に高い税率がかかるわけではない
- 課税所得を下げることが合法的な節税の本質 ─ 青色申告・iDeCo・小規模企業共済が特に効果的
会計ソフトを使えば、日々の帳簿入力から確定申告書の作成まで一気通貫でできます。税額のシミュレーション機能を備えたソフトもあるので、「今年の税金がいくらになりそうか」を早めに把握する習慣をつけると、年末に慌てることがなくなります。


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