最終更新日:2026年6月4日
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「売上が増えてきたけど、法人化っていつすればいい?」
青色申告会の窓口で何十人もの個人事業主・フリーランスに聞かれてきた質問です。よくある答えは「売上1,000万円を超えたら」ですが、実はこれだけでは判断できません。法人化の損得は「売上」ではなく「所得」で決まります。
この記事では、法人成りを検討すべき所得の目安・具体的なメリット・デメリット・フリーランスが選ぶべき法人の形まで、元青色申告会職員が実務ベースで整理します。
法人成りを考え始めるのは「所得600万円」が目安
個人事業主の税負担は所得が増えるにつれて急カーブで上がります。所得税は累進課税なので、高所得になればなるほど手取りが削られる構造です。
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 個人事業税(目安) | 合計限界税率 |
|---|---|---|---|---|
| 330万〜695万円 | 20% | 10% | 5% | 35% |
| 695万〜900万円 | 23% | 10% | 5% | 38% |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 10% | 5% | 48% |
(参照:国税庁 No.2260 所得税の税率)
一方、法人(中小法人)の実効税率は所得800万円以下の部分で約21〜22%、全体でも約33〜34%にとどまります。所得が600万円を超えたあたりから、「このまま個人事業主を続けるより法人化した方が手取りが増える」ケースが出始めます。
法人化で税負担が変わる仕組み(シミュレーション)
【例】事業所得800万円のフリーランスが法人化した場合(概算)
| 項目 | 個人事業主のまま | 法人成り後 |
|---|---|---|
| 課税される所得 | 800万円 | 役員報酬800万円 →給与所得控除190万円 →給与所得610万円 |
| 所得税(概算) | 約120万円 | 約70万円 |
| 住民税(概算) | 約80万円 | 約56万円 |
| 個人事業税 / 法人均等割 | 約26万円 | 約7万円(均等割のみ) |
| 税負担合計(概算) | 約226万円 | 約133万円 |
この例では年間約93万円の差が生まれます。法人化のポイントは、役員報酬として受け取ることで「給与所得控除」という控除が新たに使えるようになる点です。個人事業主には給与所得控除はありませんが、法人の役員になると適用されます。
※実際の税負担は社会保険料・経費・各種控除によって大きく異なります。必ず税理士に試算を依頼してください。
法人成り3つのメリット
① 税率差で手取りが増える
上記のシミュレーション通り、所得600万円を超えてくると個人と法人の税負担差が無視できなくなります。さらに所得が増えるほど差は拡大します。
② 消費税の免税期間を最大4年リセットできる
個人事業主として開業すると、最初の2年間は消費税が免税です。法人化すると、この免税期間がリセットされ、法人でさらに2年間の免税期間が得られます。合計で最大4年間の免税期間を確保できる計算です。
ただし、インボイス制度(2023年10月開始)でインボイス発行事業者(課税事業者)に登録済みの場合は注意が必要です。法人化後も課税事業者として継続する必要があるケースがあり、免税のリセットが使えないことがあります。インボイス登録の有無によって判断が変わるため、税理士への確認をおすすめします。
消費税の免税・課税の判断は→フリーランスの消費税 免税と課税どっちが得?
③ 赤字の繰越が3年→10年になる
個人事業主は純損失を3年間繰り越せます(青色申告)。法人は欠損金を10年間繰り越せます。事業の波が大きいフリーランスや、設備投資をまとめて行う年がある方には大きな差です。
見落としがちな3つのコスト
「法人化すれば節税できる」だけを見て動くと、後悔することがあります。現場でよく見てきた落とし穴を3つ挙げます。
① 赤字でも年7万円の税金がかかる
法人住民税の「均等割」は、利益がゼロでも赤字でも毎年かかります。最低でも年7万円(都道府県分+市町村分)。事業がうまくいかない年でも、この固定費は発生し続けます。
② 役員報酬は期中に変更できない
法人の役員報酬は、事業年度開始から3か月以内に決定したら、原則として1年間変更できません(定期同額給与)。売上が読みにくいフリーランスにとって、「思ったより売上が下がったのに役員報酬だけ高いまま」という状況が起こりえます。報酬設定は慎重に行う必要があります。
③ 社会保険への強制加入で手取りが減ることもある
法人化すると、経営者本人も社会保険(健康保険+厚生年金)に加入する義務が生じます。国民健康保険と国民年金から切り替わりますが、役員報酬の水準によっては社会保険料の負担が増えるケースもあります。設立前に試算しておくことが欠かせません。
フリーランスの法人化は「合同会社」が主流
法人といえば株式会社を思い浮かべる方が多いですが、フリーランスの法人化では合同会社(LLC)を選ぶ方が圧倒的多数です。理由は設立コストと運営の自由度です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立費用(概算) | 24〜25万円 | 6〜11万円 |
| 定款認証 | 必要(約5万円) | 不要 |
| 税制 | 法人税・住民税等 | 同じ |
| 社会的知名度 | 高い | 近年普及中 |
| 経営の自由度 | 株主の意向が必要 | 高い(一人で意思決定) |
税制上のメリットは株式会社も合同会社もまったく同じです。一人で事業を営むフリーランスなら、コストが低く手続きもシンプルな合同会社を選ぶのが現実的です。
法人化後の節税手段については→フリーランスの節税完全ガイド2026年版|全手段まとめ
まとめ|法人成りは「所得600万円」を超えたら本格検討
- 法人化の損得は「売上」ではなく「所得」で判断する
- 所得600〜800万円が検討開始の目安。役員報酬設定で給与所得控除が使えるようになる
- 消費税免税のリセット・赤字繰越10年も大きなメリット
- 赤字でも年7万円の均等割・役員報酬の変更不可・社会保険加入義務に注意
- フリーランスの法人化は設立費用が安い合同会社が主流
- 実際の節税効果は個別の状況によるため、税理士への相談が必須
法人化を検討する際は、現状の国民健康保険の節税余地も確認しておくと判断の参考になります。→個人事業主の国保が高い理由と節税する5つの方法もあわせてご覧ください。
「法人化すべきか迷っている」という段階でも、税理士に相談するだけで自分のケースに当てはめた試算が出てきます。まずは会計ソフトで現在の所得を正確に把握することから始めましょう。
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