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「妻に仕事を手伝ってもらってるんですが、給料を払ってもいいんですか?」
青色申告会の相談会場で、毎年のように受けてきた質問です。答えは「払えます。しかも経費になります」なんですが、ここには落とし穴が多い。
配偶者が手伝っているとき、選択肢は大きく2つあります。配偶者控除のままにしておくか、青色事業専従者として給与を払うか。この選択を間違えると、毎年数万〜十数万円の税負担の差が生まれます。17年間、申告書を一緒に見てきた経験から言うと、制度を知らずに損をしているケースが本当に多い。
この記事では、2つの制度の違いと、どちらが得になるかの判断基準を具体的な計算例とともに解説します。
⚠️ 【2026年改正情報】
2025年(令和7年分)から基礎控除が所得に応じて最大95万円に引き上げられ(合計所得655万円超の場合は58万円)、配偶者控除の適用要件(配偶者の所得上限)も変更されました。本記事は令和7年分改正後の内容に対応しています。最新情報は必ず国税庁ウェブサイトでご確認ください。
配偶者控除と専従者給与、根本的な違いはここ
まず構造から整理します。この2つは「どちらが節税になるか」という話の前に、仕組みがまったく違います。
| 配偶者控除 | 青色事業専従者給与 | |
|---|---|---|
| 性質 | 所得控除(一定額を所得から差し引く) | 必要経費(給与全額を経費計上) |
| 控除・経費の上限 | 最大38万円(事業主の所得に応じて逓減) | 労務の対価として相当な金額なら上限なし |
| 配偶者の所得要件(2026年) | 所得58万円以下(給与収入のみなら123万円以下) | 要件なし(給与を受ける側) |
| 申告方法 | 青色・白色どちらでも使える | 青色申告者のみ |
| 届出 | 不要 | 必要(税務署へ届出書を提出) |
| 重複使用 | 専従者給与を払うと使えない | 配偶者控除と同時使用不可 |
重要なのは最後の行です。専従者給与を1円でも払った年は、配偶者控除が使えなくなります。「少額だから両方使える」というわけにはいかない。これを知らずに申告して、税務調査で指摘されるケースが実際にありました。
また、白色申告者は「青色事業専従者給与」は使えません。白色の場合は「事業専従者控除」という別の制度があり、配偶者なら最大86万円の控除(専従者控除)が使えますが、実際に給与を払えるわけではなく、あくまで控除額として計算するものです。本記事では青色申告者向けの「専従者給与」を中心に解説します。
根拠:国税庁 No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除(所得税法第57条)
専従者給与を使うための3つの条件
「妻に給与を払えばいいだけでしょ」と思っているとしたら、それは半分正解で半分間違いです。専従者給与が経費として認められるには、3つの条件をすべて満たす必要があります。
条件1:青色申告者であること
これが大前提です。青色申告の承認を受けていない場合は、専従者給与制度は使えません。まだ青色申告をしていない方は、開業届と同時または開業後2ヶ月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
条件2:届出書を税務署に提出していること
「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。提出期限は以下の通りです。
- すでに事業を営んでいて新たに専従者を雇う場合:その年の3月15日まで(もしくは専従者になった日から2ヶ月以内)
- その年の1月16日以降に開業した場合:開業日から2ヶ月以内
届出書には「誰に」「いくら払うか」を記載します。後から金額を変えることもできますが、変更届を出す必要があります。届出に書いた金額を超えて払っても、超えた分は経費として認められません。
参考:国税庁 A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続
条件3:「専ら従事」していること(年間6か月超が目安)
これが一番の落とし穴です。専従者として認められるには、その年の半分を超える期間(6か月超)、事業に専従して従事していることが必要です(所得税法第57条)。
具体的には、配偶者が別の会社でパートやアルバイトをしている場合、「専ら事業に従事している」とは認められません。パートと掛け持ちしながら専従者給与も受け取る、という使い方は基本的にNGです。
ただし例外があって、学業や他の業務に従事する期間が「短期間」や「軽微」なものであれば認められる場合があります。このラインは税務調査でも争点になりやすいので、判断に迷う場合は税理士に確認することをお勧めします。
給与額は「相当な金額」であること
専従者への給与は、実際の労働の対価として「相当な金額」でなければなりません。同じ仕事を外注したときの相場をベースに考えるのが現実的です。根拠のない高額給与は「過大給与」として否認されるリスクがあります。相談会場でよく聞いたのは「月8万〜15万円くらい」のレンジです。事業規模と業務内容に見合った金額を設定してください。
専従者給与を使うメリット3つ
メリット1:給与全額を経費として計上できる
配偶者控除の最大額は38万円(事業主の所得が多い場合は段階的に減額)です。一方、専従者給与は労務対価として相当な金額であれば、いくらでも経費に計上できます。
たとえば月10万円(年120万円)払えば、配偶者控除の38万円と比べて82万円分多く所得を圧縮できます。
メリット2:配偶者の側でも給与所得控除が使える
専従者給与は「給与」として扱われるため、受け取る配偶者の側で給与所得控除が適用されます。2026年から給与所得控除の最低保障額は65万円に引き上げられました。
つまり、配偶者が受け取った専従者給与から65万円を差し引いた額が所得になります。年間130万円の給与でも、所得は65万円。一定額まであれば配偶者自身の所得税・住民税も低く抑えられます。
メリット3:配偶者が国民年金・国民健康保険に加入する「きっかけ」になる
専従者給与を受け取ると、配偶者は事業主の「被扶養者」ではなく、独立した納税者として国民年金・国民健康保険に加入することになります。国保の保険料は増えますが、将来の年金受給額が増えるメリットもあります。世帯全体のライフプランで考える必要があります。
配偶者控除のままにすべきケース
専従者給与が常に得かといえば、そうでもありません。次のケースでは、配偶者控除のままにする方が合理的です。
ケース1:配偶者が別で収入を得ている
前述の通り、専従者として認められるには「専ら従事」が必要です。配偶者がパートや他の仕事を持っている場合は、そもそも専従者制度が使えません。
なお、配偶者が会社員として働きながら副業でも収入を得ている場合は、確定申告の要否や住民税の申告ルールがまた別の話になります。詳しくは副業会社員の確定申告【2026年版】|20万円ルールと住民税で確認しておくと安心です。
ケース2:配偶者に手伝ってもらう時間・内容が少ない
週に少し帳簿を手伝う程度で月10万円の給与を払うのは、税務上「相当な金額」として認められないリスクがあります。実態のない給与は、税務調査で否認される可能性があります。
ケース3:事業主の所得が少ない
事業主の課税所得が低い場合、専従者給与で所得を圧縮しても税率が低いため、節税効果が小さくなります。一方で、配偶者に給与を払うと配偶者自身に所得税・住民税が発生する可能性があります。世帯全体でシミュレーションして判断してください。
ケース4:青色申告をしていない(白色申告)
白色申告者は専従者給与制度を使えません。配偶者を事業専従者にする場合は「事業専従者控除」(配偶者なら最大86万円)を使う形になります。それ以外は配偶者控除の方が手続きが楽です。
計算例:どちらが得か比べてみる
具体的な数字で見てみましょう。事業主の課税所得が500万円(税率20%)のケースで比較します。
前提
- 事業主:課税所得500万円(各種控除差し引き後の計算前の事業所得)
- 配偶者:事業を手伝っている。他の収入なし。
- 比較A:配偶者控除(38万円)を使う
- 比較B:専従者給与を月10万円(年120万円)払う
控除の判断が決まったら、確定申告の全体的な手順も確認しておきましょう。→フリーランス確定申告のやり方完全ガイドもあわせてご覧ください。
| 項目 | A:配偶者控除 | B:専従者給与120万円 |
|---|---|---|
| 事業所得(経費差引後) | 500万円 | 500万円−120万円=380万円 |
| 配偶者控除 | −38万円 | 使えない(−0円) |
| 事業主の課税所得(概算) | 約462万円 | 約380万円 |
| 事業主の所得税+住民税(概算) | 約99万円 | 約80万円 |
| 配偶者の所得(給与所得控除差引後) | 0円 | 120万円−65万円=55万円 |
| 配偶者の所得税+住民税(概算) | 0円 | 約5万円 |
| 世帯合計税負担(概算) | 約99万円 | 約85万円 |
この例では、世帯全体で約14万円の節税になります。専従者給与を払うことで配偶者本人に5万円の税負担が生じますが、事業主側での節税が19万円ほど出るため、差し引きプラスです。
ただし、この計算は概算です。実際には事業主の所得税率・住民税率、各種控除の有無、配偶者の国保・年金の保険料変動なども絡みます。正確な比較は会計ソフトのシミュレーション機能や税理士への相談で確認してください。
⚠️ 【注意】
上記の計算は説明を簡略化した概算です。実際の税額は基礎控除・社会保険料控除・国民年金・国民健康保険料など個別の事情によって大きく変わります。投資・保険など他の節税手段との組み合わせも踏まえて、必ず会計ソフトまたは税理士に確認してください。
なお、専従者給与を選んでも配偶者控除を選んでも、翌年の住民税は前年の所得をもとに計算されます。住民税の仕組みを詳しく知りたい方はフリーランスの住民税はなぜ高い?【2026年版】計算方法と節税もあわせてご覧ください。
まとめ:判断のフローチャート
整理すると、判断の流れはこうなります。
- 青色申告をしていない→ 配偶者控除か白色の事業専従者控除(最大86万円)を使う
- 青色申告・配偶者が他で働いている→ 配偶者控除を使う(専従者制度は使えない)
- 青色申告・配偶者が専ら手伝っている・給与が年38万円超→ 専従者給与の方が有利になりやすい
- 青色申告・配偶者の手伝いが少額・短時間→ 配偶者控除の方がリスクが少ない
特に③のケースで、まだ届出書を出していない方は早めに動いてください。年の途中から専従者給与を払いたい場合も、「専従者となった日から2ヶ月以内」に届出書を出せば間に合います。
専従者給与の手続きや給与計算・源泉徴収の管理は、会計ソフトを使うとかなり楽になります。帳簿から確定申告書まで一元管理できるので、計算ミスや申告漏れのリスクも下がります。
⚖️ 配偶者控除か専従者給与か、税理士に相談して正確に判断する
計算が複雑で自分では判断しきれない場合は、税理士への無料相談が確実です。税理士紹介エージェントなら希望条件に合った税理士を無料でマッチング。
専従者給与の管理・確定申告は会計ソフトで一元化するのが確実です


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